「異状死」「変死」の辞書上の定義

NORMANさんのまとめにない文献から、いくつか引用します。
それぞれ、語句の横に英訳単語が記載されているのですが、異状死も変死も「unnatural death」となっています。 こうした概念枠の設定じたいに、行政や政治との関係にある「仕事の事情」が、表現されているように思います。


法医学小辞典』(南山堂、1997)より:

異状死体(unnatural death)
 異状死体の定義は医師法にはないが、「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外のすべての死体」と理解されている。 その内訳は、

  • (1) 外因死であることが明白な死体。またはその疑いのある死体。外因により死亡したもの。外因が主たる原因で死亡したもの。外因の後遺症で死亡したもの。
  • (2) 外因死の疑いはないが、死因を確定できないもの。生前健康な人の突然死、または生前種々の症状を訴えていたが、受診していない者の死亡。独居人や身元不明者の死亡やDOA*1
  • (3) 内因死か外因死かまったく判断できないもの。運動中あるいは運動直後の死亡。受診中あるいは受診直後の死亡。入院中の急死、就業中の急死。

 医師法にある異状死体の届出義務は、疑わしきは届出ということで処理すべきである。注意すべきことは、外傷で入院し長期間治療後に病死した場合で、外傷と直接死因となった疾病間に医学的因果関係がある場合、すなわち原死因が疾病でないときは外因死となるので、届け出る必要がある。

変死(unnatural death)
 警察庁でいう変死者の定義とは、自然死(病死・老衰死)ではなく犯罪死の疑いのある死体をいう。 胸部に刺創があったり、頚部に紐が巻かれているような明らかな犯罪死は変死とはいわない。 変死の疑いのある死者とは、変死者と積極的に判断できない死体をいう。 変死者と変死の疑いのある死者を併せて変死体と総称する。 なお、医師法21条にある異状死体の届出義務の対象になるものは、自然死以外のすべてであるので、変死とともに犯罪死が含まれる。



医学書院医学大辞典』(医学書院、2003)より:

異状死(unnatural death)
 診療継続中の患者がその疾病により死亡した場合以外を異状死という。異状死の法的定義はないが、日本法医学会は1994(平成6)年に異状死として届け出るべき場合を「異状死ガイドライン」として発表している。 「異状」とは、単に死因についての病理学的な異状をいうのではなく、死体に関する法医学的な異状と解すべきであって、死体自体から認識できる何らかの異常な症状ないし痕跡が存する場合だけでなく、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況、身元、性別などを諸般の事情を考慮して死体に関し異状を認めた場合を含む(昭和44年3月27日東京地裁八王子支部判例。 異状死体を検案した医師は24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない(医師法21条)。 警察では異状死体を(1)犯罪死体、(2)非犯罪死体、(3)変死体(犯罪に関わるか否かが不明な死体)に区分、検視・検案および必要があれば解剖が行われることになる。

「異状死」に関しては、最近の大野病院の裁判でも、昭和44年3月27日東京地裁八王子支部判例が参照されています。


最新医学大辞典第3版』(医歯薬出版、2005)より:

変死(unnatural death)
 警察では、変死体等措置要綱に基づき、外因死(交通事故死を除く)や原因不明の死亡例を、明らかな犯罪に起因する犯罪死体、明らかに犯罪が関与しない非犯罪死体、そのいずれか判断のできない変死体に区分している。 変死体は、刑事訴訟法第229条により、検察官、あるいはその代行者としての検察事務官または司法警察員の検視が行われる。 広義には犯罪死体をも含めて変死体という。

以上を勘案すると、
「犯罪が関与しないことは明らか」といえる孤独死については、異状死とは言えても、「変死」とは呼べないように思うのですが・・・。 それとも、「不作為による死」*2として、違法性を読み取ろうとしているのでしょうか。
統計に現われている表面的な分類用語と、実際の分類の関係については、自分の足で取材しないと分かりそうもありません。



*1:Dead-On-Arrival、「病院到着時に死亡していた」

*2:参照:「不作為犯」(執筆:名和鐵郎