3月21日、大阪でのイベント

「NHKスペシャル『フリーター漂流』を見る、聞く、議論する」にお邪魔してきました。いろいろ考えたので、メモ的にレポート。

【★おことわり★:以下、たくさんの発言が引用されますが、いつもながら「逐語的引用」ではありませんし、ご本人たちの許可や校閲はいっさい得ていません。 ▼私は、労働問題についてまったくの素人であり、今回のレポートはいわば、「学部1回生によるゼミレポート」みたいなものです。語の運用間違いなどのご指摘は大歓迎ですのでよろしく。 ▼以下、多くは敬称略。





番組上映

私は初見でした。私としては大事な情報が多かったり、個人的な言語訓練としても意味があると思うので、番組内容を少し詳しく書き記す作業をしてみます。

  • 冒頭
    • 21才男 : 「人間ロボットですよ」
    • 22歳女 : 「私の代わりはいくらでも居る」


  • 事例1:山端昭宏氏(21)
    • ファッション・アパレル関係希望/中学卒業以来定職経験なし/通信で高卒資格を目指す
  • 失業率が全国第1位の北海道(24歳以下は10%)
  • 請負会社*1が面接
    • 北海道で時給は平均700円/栃木で時給900円が見つかる(40時間残業で234000円)
  • 正社員雇用を手控える企業と、短期就労を重ねるフリーターとを請負会社がつなぐ。フリーターは請負会社の「短期契約社員となる。
    • 1つ1つの商品の寿命が短く、生産ラインが次々に変わる携帯電話メーカーでは、生産ラインを機械化していては採算が取れない。 → 極端に機械的な単純作業を、人間にしてもらう必要がある → 生産変動のたびに、何のスキル蓄積も生じない「短期の単純作業」への人員補充を、請負会社に頼むことになる。
    • 1人1人のフリーターは「タマ」*2として、生産ラインの都合に合わせその都度補充される。
  • 管理者のちがい:
    • 「派遣」:働く人は、勤め先の企業の下に入る
    • 「請負」:働く人は、請負会社の下に入る
  • めまぐるしく変わる生産ライン。当日の朝に、メーカー側から請負会社スタッフに「ライン変更」が告げられ、このスタッフがすぐさま現場に告知する。戸惑うフリーターたち。
    • ナレーション:「仕事をもらっている請負会社は、メーカーの要求は断わらない」
    • 「急な移動も、請負会社に一言いえば解決。 労働基準法で守られる『派遣』では、こうはいかない」*3
  • 事例2:橋掛輝人氏(35)
    • 札幌出身/ホテルや旅行会社など5社の面接を受けるが落ちる/ようやく請負で見つける
    • 橋掛さん : 「細かい仕事はイヤとか、朝眠いとか、若い子みたいに言ってられない」 「これ以上シタはない、上みて前向きにやる」
    • 手先は器用ではない。 親が、初めての独り暮らしを心配していろいろ送ってきてくれた。 自家製の、土のついた人参など。
    • 去年まで、橋掛さんは父親と運送会社を営んでいた。しかし不況下の競争の中、下請けまで降りてくる仕事は激減。 「1km走って90円」の仕事にしかならず、親子で働いて「1ヶ月7万円」にまで収入が落ち込む。 → 仕方なく息子が他の仕事へ。
  • 山端さん、9月1日に就労し、2つ目の工場で9月7日に解雇。
    • ラインで少し休んでいる時に注意を受けたが、注意者の言葉遣いに「カチンと来て」口論となり、パレットを投げつけてしまった。翌日、請負会社の担当者が寮まで説得に来て、「自分が悪いと認識してもらわないと困る。そうすれば再雇用の用意がある」と言うが、山端さんは「自分は悪くない」と言い張り、そのまま解雇。
  • ナレーション:「半数が、契約期間の半年もたずに辞めていく」
  • 請負会社はすでに1万社、1兆円産業
  • 行政の指導として、製造現場への人材派遣を解禁。 人員調整を請負会社に頼る。
    • 製造業に送り込んでいるフリーターは100万人を超える。
    • 請負会社スローガン : 「必要な時に必要な人材を」
    • 請負会社スタッフ : 「社会貢献してますよ」
  • 事例3:當野貴也氏(25)、妻・あゆみ氏(22)
    • 結婚した今もフリーターを辞めるつもりはない。「やりたい仕事が見つかるまで、妥協したくない」
    • 製造業現場での経験が豊富なため、メーカーとの調整やノルマ達成管理など、現場でのリーダー役を任せられるが、時給は他の人と同じ900円。
    • 「過労とストレス」(医師の診断)で38度の熱を出して寝込み、1週間近く仕事を休む。遅れを取り戻そうと張り切ってラインに復帰したが、担当製品の売れ行き不振で生産量が落ち込み、残業で稼ぐつもりだったのに、勤務時間が余ってしまうほどノルマが少ない。
    • 給料日。月に19日働いて(残業8.5時間)、「6万7000円」。前月より8万円減。将来の子供の教育資金なども考え、貯蓄もしたいのに、これでは貯蓄どころか取り崩し。
    • 請負会社側に「やめたい」旨を伝えると、「現場のリーダーに突然やめられては困る」と慌てられ、30分説得される。しかし「残業も合わせ、月収14万円前後と聞いて契約したのに話が違う」云々と抗議。 結局やめる。
  • 橋掛さん : 「職場を転々としていて、これでは将来につながる技能は身につかない」 「40歳・50歳になってまで『このまま』ってわけにはいかない」 → 親に相談しないまま請負会社の仕事を辞めてしまう。
    • 帰郷した息子に対して父親 : 「我慢するのが仕事だ」「あきらめるな」「逃げるな」云々と説教。 請負会社経由の雇用現場の実状が、父親にはまるで理解できないらしい。 黙って聞く橋掛さん。
  • 當野さんは、請負会社を通さず、直接工場に掛け合ってアルバイト雇用の形を得た。時給1050円。
  • 山端さんは帰郷後、工事現場の仕事を半月で辞める。実家に居づらくなり、今は友人宅に居候。
  • 橋掛さんは4ヶ月ぶりに本格的な就職活動。しかし請負会社窓口の男性から、「あなたの条件だと、非常に過酷なのが1件だけ」。車の組み立てラインで、ものすごい量の部品を立ちっ放しで取り付け続け、ノルマは1日に300台。担当者:「35歳*4というのは、製造業の現場のリミットなんですよね」




番組上映終了後、司会の樋口明彦氏が

の2点を焦点として挙げた。





*1:番組で映っていたユニフォームには「NIKKEN」という会社名が見えた。日研総業だろうか。

*2:請負会社スタッフの表現

*3:参照

*4:もうすぐ36歳と言っていたから、橋掛氏は私と同学年だ。

脇田滋氏:「請負労働の現状と課題」(研究者の視点)

脇田氏は法学部の教授でいらっしゃるのだが、労働者の権利闘争をめぐり、発言が法律用語で徹底的に武装されている感じで、必死に集中して聞いていてもなかなか理解できなかった。
以下、理解できた範囲だけを断片的に記す。



(真の)請負の4つの要件:

  • (1)作業の完成
    • 請負とは、当事者の一方がある仕事の完成を約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約することをいいます。」
  • (2)作業指揮
  • (3)使用者責任
    • 「エンド・ユーザー」という言葉があったので、「直接雇用・間接雇用」の話でしょうか。
  • (4)原材料・機械
    • もとは「自前調達」が前提だったが、第二次大戦終結時に「経験があればいい」に緩まったとのこと。

(よくわからん・・・)



職業安定法・第44条(労働者供給事業の禁止)*6

何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

正社員とフリーターとの「混在労働」が隠れ蓑になっている、と脇田氏。



脇田:「憲法27条の空洞化」

以前 id:matuwa さんが、「勤労の義務」との関連で取り上げておられた第27条。

  • 憲法第27条 【勤労の権利及び義務,勤労条件の基準,児童酷使の禁止】
    • (1)すべての国民は,勤労の権利を有し,義務を負ふ。
    • (2)賃金,就業時間,休息その他の勤労条件に関する基準は,法律でこれを定める。
    • (3)児童は,これを酷使してはならない。

フリーター漂流」との関連で問題になるのは(2)で、「労働基準法」との関係が問われているんだと思う。



脇田:「≪派遣法≫というのは、高梨昌(たかなし・あきら)氏がゴマカシに作った言葉。」

「派遣労働」とは本来、「一時的な、短期のもの」なのに(だからこそ成立する経営者受益的な雇用関係)、日本では「長期の間接雇用」にも「派遣労働」という言葉があてられており、この用語法が労働者に不利益な雇用事情を隠蔽している、というご指摘なのだと思う。
脇田氏のサイトに説明文があったので、引用してみます(強調は引用者)。

 日本では、派遣労働を本来の「一時的労働(temporary work)」ではなく、「派遣された労働(dispatched work)」とする、「欺瞞的な用語法」が労働省やその関係者によって使用され、一般化してしまっています。 しかし、外国では派遣労働は、あくまで「一時的労働」です。 つまり、「長期の派遣」は、本来の訳では、「長期の一時的労働(temporary work)」となり、根本的に矛盾します。 そこで労働省や一部の研究者は、その矛盾をよく知っていて、意識的に「dispatched work」という用語を使って、日本では「長期の派遣(dispatched work)」が問題にならないという「すり替え」論理でゴマかそうとしてきた訳です。 この論理は、国際的にはまったく通用しないものです。




「同一労働同一賃金」

配布された資料に「イタリア全国派遣労働協約」が引用されており、その第19条「賃金:派遣先企業の従業員の賃金を下回らない」が強調される。日本では、同一労働であっても賃金はフリーターが(正社員より)格安。



脇田:「派遣法は労働組合破壊法だ」

ここで樋口明彦氏がボードに以下を板書したのだが、全体の整理かな。

脇田氏:「日本の雇用状況はあまりに異常である」



ニコン熊谷・ネクスター事件 (メンタルヘルスの破壊)






*1:原告代理人(弁護士)は『過労自殺 (岩波新書)』著者・川人博

泰山*7義雄氏:「フリーター問題に対する労働組合の役割」(労働組合の視点)

北摂地域ユニオン のかた。ご自身で「私は感想を」とおっしゃっていたし、箇条書きにする。

  • 法的な保護は、雇用期間が半年を過ぎて以後。*1
  • 労働組合を作っても、会社自身がもたない。本当に立場が強いのは派遣先の会社(メーカー)であって、請負会社も立場は弱い。権利を主張しても、「あんたの会社はもう要らない」と言われたら終わり。
  • 現場で権利主張したら次期に雇ってもらえない
  • 請負会社の社員が「私たちは社会に貢献している」と言っていたが、「企業に貢献している」だろう
  • 女性の半数は有期雇用
  • 100人未満の企業では、労働組合組織率は1.3%*2
  • 「使い捨て雇用」の時代
  • 「フリーター417万人」は「甘え」じゃない。 自分で生きるすべを手にして欲しい。
  • 「個人が安定を得るのは、企業責任ではなく自己責任」という流れがある
  • 月収20万円未満の人が全体の78%*3
  • あれだけ働いても生活保護レベルに満たない、というのは憲法違反だ






*1:ネット上に条文などは見つからなかった。

*2:参照

*3:参照

会場質問:「職業安定所*8の役割と現状は?」

会場にいた職安職員の女性が返答。

  • 職安(ハローワーク)の職員自身が、半分は非常勤であり、時給数百円
  • 正社員はバトルできるが、非常勤にはできない

ここで、かなりリアルな現場の活写が。

  • 「何人でやってるのか」「どこでやってるのか」という質問を請負会社は嫌がる。
    • 派遣先を明記していない求人票は多い。(派遣先が知れると、応募者本人が自分で派遣先企業に問い合わせることが多く、それでは請負会社がアガッタリになるから)
  • 「こんな求人よく受けたな」と思うことが多い。職業安定法違反の求人内容を、職安が平気で引き受けている。
    • 発言の最後に笑顔で「職安を指導せよ」。会場笑い。

ここで、質問者と返答者の間でいくつか言葉の応酬があったのだが、「何もしていません(笑)」という一言が分かったぐらいで、必死に集中して聞いていたにもかかわらずやり取りの内容は信じられないぐらいに理解不可能だった。――「理解不可能」といっても、やり取りの内容を批判しているのではなくて、文字通りの意味で「難しすぎて分からなかった」という意味です。 ホント、外国語みたい・・・・。

  • 脇田氏:「職安が派遣会社や請負会社から求人を受けるのはおかしいのではないか」
    • 「労働行政が弱い。下からの突き上げで行政の姿勢を正す必要がある」
    • 「京都の民主的大学が派遣会社を作ってるのが実状」
    • 「『使用者責任』を問うべき。いちばん利益を得ているのは工場だ」


会場質問:「雇用の話は、発言者自身が自己言及的に自分のことを問われるのではないか。」

質問者は、龍谷大学に教授職で勤務されているという脇田滋氏を名指しで指名。「先生は勤務先で戦っておられるのですか」。

  • 脇田氏:「非常勤講師はフリーターみたいなもの」
  • 「語学教師の半分は非常勤講師」
  • 単組(単位労働組合)が大反対」という発言があったが、どういう内容だったか不明。
  • 脇田氏:「雇用について、多くの人は『こういうことが問題だ』という意識すらない」

他にも何かおっしゃっていたはずだが理解不能
脇田氏の回答後、質問者から「キビシイ質問、すみませんでした」。



「若者」たち*9

20代の発言者5人中、3人が私の知人で、残りの2人も「知人の知人」。
発言順はこの通りではないが、発言の大意と、私の感想を少し。

  • Aさん:「私もフリーターで、朝8時〜夜11時という勤務もあるが、やり甲斐がある」
    • やり甲斐を見出せていない人は不幸、というだけで、労働環境の話はなし。
  • 五条(id:gojopost)さん:「少ない収入でケータイ代1万5000円とか、アホやなぁと」
    • 会場苦笑。「いかにも現代の若者ふう」と聞こえてしまったか。
  • Bさん:労働組合というが、不況なのだし、権利闘争ばかりでは会社が潰れてしまうのでは?(笑)」
    • あえて最後に「(笑)」と入れてみた。誤解かもしれないが、終始「組合活動なんてもう時代遅れ、そんなのあたりまえでしょ」という雰囲気を感じた。
  • Cさん:「以前は正社員をやっていたが、体を壊し、毎日『9時〜5時』で働ける状態ではなくなった。もう正社員には戻りたくない」
    • 正社員になること自体がリスクを伴う、という話だと思う。労働運動系の人たちは鼻白んだように感じたが、気のせいか。


*1:参照1】、【参照2

「競争」

こちらも引用と私の感想。

  • 大野正和氏:「自由競争がまったく成立していない。非常に不公平。どうせなら完全に自由競争にしてほしい」
    • うまく聞き取れず。しかし過労死問題をされている大野氏が「自由競争を!」と言われたのは(いい意味で)意外。
    • あらためて、「雇用・労働問題」と「思想」のつながりを感じる。≪労働≫って思想の話なんだね。

(会場発言は他にもあったのだが、内容を理解できなかったり、覚えていなかったり。)



次のような構図は明らかだったと思う。

 労:「闘争せねば!」
 若:「なんで?(笑)」*1



これをめぐってまた膨大なことを考えたので、続きはまたあらためて。





*1:2ちゃんねる用語に馴染んだ人の表記だと、「なんで?w」となるでしょうか。小文字の「w」は、「冷笑・自虐的な、仲間内的笑い」を表します。