人間関係の政治

ずいぶん前の話。
知人の大学院生 B が、「大学院の先輩 A を紹介したいのだが、興味はないか」という。 お二人とも私よりずっと年下だが、「A さんは、大学の外とつながりたがっている。フリーでひきこもりに取り組んでいる上山さんをぜひ紹介したい」とのこと。 快諾し、日時と場所を設定してもらった。


当日、彼らの所属する大学の正門前で待ち合わせたのだが、指定された時刻を30分過ぎても A が現れない。 ほぼ時刻どおりに来ていた B は申し訳なさそうにして、「研究室にいるはずだから、様子を見にいってきます」という。
それから30分たっても、誰も来ない。 B の携帯に電話してもつながらない。 途方に暮れたが、何かあったのかと思い、そのまま正門前で待ち続けた。
2時間近くたって、ようやく B から電話。 ただならぬ雰囲気で、「もうすぐ行きます」という。 さらに30分以上が過ぎ、B だけが憔悴して現れた。 最初の待ち合わせから3時間以上たっている。
事情を聞くと、A は最初から研究室にいて、待ち合わせのことをすっかり忘れていた。 B が迎えに行ったところ、「上山って人はもう怒ってるだろう」と居直り、そのまま B を研究室に監禁して、「日頃の研究上の問題点」をえんえんと2時間半、説教し続けたらしい(途中の電話はトイレからだった)。 B は正門に待たせている私のことが気になったが、後輩という立場では反論もできず、どうすることもできなかったという。 あきれ果て、そのまま帰宅した。


数日たって B に聞くと、A はその一件を話題にすることもなく、「なかったこと」にしているらしい。 いくらなんでもひどいと思い、「A 本人に直接謝りに来てもらえないか」と申し入れたが、「自分は後輩だから、とてもそんなことはお願いできない」という。 「だったら、A の上司である教授に話をさせてもらう」と言ったら、「そんなことされたら、上山さんを紹介しようとした自分が研究室に居られなくなる」。 間に立ってうろたえる B を責めるのもバカバカしくなり、そのままウヤムヤにした。


それから2年ほどたって、B は自殺した。