映画『ゆれる』 個人的印象メモ

思いつくたびに記してみようと思う。
ネタバレなので、映画本編を観ていない方はご注意ください。)

    • 稔(みのる、香川照之)は、地元に残っているとはいえ、堅実に家業を営んでいる。 ▼もし稔が、「10年以上ひきこもったまま35歳を迎えた兄」だったら、あの映画はどうなっていただろうか。 観ながらずっと考えていた。 高校時代に家を出て行った弟、家に引きこもって中年期を迎えた兄、母が死亡・・・。 映画としては緊迫感が増すかもしれないが、観客の多くは、兄への感情移入ができなくなるか。
    • 山の場面で、猛(たけるオダギリジョー)が素っ気なく「クソしてくるわ」。 「もてる男」の描写として見事。 あれが「もてない男」だったら、「えっと・・・・・あの・・・・・トイレ行ってきます・・・・・・」か、黙ってフェードアウトすると思う。 モテ系は、生理現象にも自意識があまりないと感じる。 神経症の自意識過剰男、セクシャルに魅力のない稔は、言動にいちいち生活臭が漂う。 ▼映画終盤で、猛が垢抜けた趣味車から業務車両に乗り換え、色気のないエンジン音に包まれるシーンが、事情の変化を感じさせる。
    • 「もてる」系はどんどん性的に振る舞って相手を喜ばせ、「もてない」系は女性に迷惑をかけないよう努力すればするほど、そのていねいな物腰が逆に神経症的で嫌われる。 「迷惑をかけないようにしよう」と必死になることそのものが、セクハラ的に嫌悪される。(稔さん、橋の上での事件直前の振る舞いは、僕が観ていてもキモかったです*1。) ▼智恵子をどうでもいいと思っている猛は、再会したその日に体を求めて受け入れられ、彼女に真剣な想いを寄せる稔は、まじめに働き、あれだけ一緒にいながら、お酒にすら一度も付き合ってもらえなかった。――仕事も愛情生活も、マジメに腰を据えてもいいことが何もない。 むしろ裏目に出る。 ▼「もてない男」の trauma 的心理事情の一端を、30歳そこそこの女性が見事に描いて見せた、そのことへの驚きと感謝*2




*1:香川照之氏、ウマイ!

*2:ただし、私は映画を観ていて、ほとんど実の弟のことを思い出さなかった。 考えていたのは、身近で目撃してきた「もてる男」たちのこと。 「デリカシーのない、猪突猛進なだけの男が、どうして・・・?」