【キャリア・カウンセラーの戸惑い】

そうして、いよいよ最後の質問。 これがものすごく興味深かった…。

 私はキャリア・カウンセラー*1をしているのですが、3年前までは、私たちの仕事は中高年相手だった。 ところがここ1年ちょっとで状況が激変してしまい、今では若い人を相手にすることがとても多くなっている。
 その多くは、私が見ても気づくほどに、明らかに≪ひきこもり予備軍≫、つまりコミュニケーションができない。 彼らには中高年相手のカウンセリング・テクニックでは対応できないので、じつは業界全体がとても戸惑っている
 そこで質問なのですが、彼らへのジョブ・カウンセリングに役立てることのできるような情報を、教えていただけないでしょうか。



それに対する田中俊英氏の返答。

 大阪の若者向け就労支援施設「しごとふれあい広場」の立ち上げと運営に中心的に関わったんですが、そのときも、人材派遣業の経験のある優秀なスタッフが、非常に戸惑っていた。 「雇用・能力開発機構」(あるいは厚生労働省)としても、現場のスタッフとしても、「相談に来るのは(正規雇用を求めた)フリーターたちだろう」と踏んでいた。 ところが蓋を開けてみると、やってくるのは≪ひきこもり≫系の、精神的に限界的につらくなった人ばかり。 それで、僕のように「ひきこもり支援」に経験とスキルのある人間が、そういう来訪者たちの「担当」になり、つらそうな人をみんな回された。 そのことを思い出しました。

僕も同じ職場にいて、やはり同じように「つらそうなひと担当」だった。 「ひきこもり系のつらい相談は他のスタッフでは理解できないし、対応もできないから、お願いします」と。


質問に対し、「役立つ情報」をすぐに言わなかった田中氏は、やはり誠実というべきだと思う。 確か次のように返答されていた。

 今いただいたご質問は、ひきこもり支援の現場でも解決はできていないし、これからいろんな業界で、課題として共有されてくるんだと思います。




文脈の変質?

「キャリア・カウンセラー」という職業のかたが「ひきこもり」のイベントに聴衆として来られ、今回のような質問をなさるというのは、私はこれまでに目撃したことがなかった。 「ニート」という単語が流通したおかげで、一気に≪労働≫の話ができる文脈ができたのではないか。 要するにこれまでは「厚生労働省」の「厚生省」(医療)的側面ばかりだったのが、いきなり「労働省」サイドの話を持ち込めるようになったし、「キャリア」業界の方々も、問題に気付き始めたのだと思う。
ついでに言えば、文部科学省が管轄官庁である18歳までの事例(不登校)についても、労働省的観点での取り組みは必要であるように思われる。 「教育は労働のための訓練」と考えるならば。







*1:この企業のかた、というわけではありません。