一家5人死傷で逮捕の長男、「借金で家族とトラブル」 「父親の通帳を管理」(リンク先に動画あり)
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- 「引きこもりの容疑者、口論絶えず…5人殺傷」(読売新聞)
今回の件で、ひきこもっていたとされるご本人がどういう診断を下されるかは分かりませんが、関連する問題をやや一般化して取り出せば、
といういきさつに、制度的な準備が必要に思えます。
「意思無能力」(林哲郎法律事務所)より孫引き:
「意思能力のない者(嬰児、白痴、泥酔者等)のなした法律行為は無効である。この点に関し、我が国の民法には明文の規定はないが(ス民18参照)、民法起草者は当然のこととして規定したようであり、通説・判例(比較的最近のものとして、たとえば禁治産宣告を受けていない精薄者のなした法律行為に関する、最判昭29・6・11民集8・6・1055)によっても認められている。」 【上山注: 現在は「制限行為能力者」として、いくつかの言葉づかいが変わっています】
ひきこもる人の結んだ売買契約について、「被後見人のやったことだから」等として無効にできるのでなければ、脅されて尻拭いを引き受けるご家族が無限に債務を抱え込んでしまう*1。
今回のケースでは、「ネットオークションで200万円を超える借金」「先週だけで警察が7回出動」とのことで(参照)、本人の脅しにご家族や社会制度が対応できておらず、思い切った介入をした瞬間に殺人事件になってしまった。
上記リンク先末尾で、弁護士の林氏は
弁護士や裁判官にアルツハイマー病に関する知識があればこんな訴訟も提起されず、裁判でこんなにモメルこともなかったのではあるまいかと思います。
と記されていますが、既存の法律は、「社会的ひきこもり」のような実態があり得るとは想定せずに設計されていると感じます。
ご家族とご本人のあいだに柔軟な意思疎通が成り立つよう、努力を続ける一方で、
「和解やコミュニケーションなんて無理」という前提で、お互いの権利関係をシビアに明らかにし、欠けている制度については整備し直す必要があると、切実に感じます*2。
ひきこもりを専門とする精神科医・斎藤環氏は以前、次のように語っていました。
これまでの引きこもり関連事件は、特異性の問題であり、確率的なものだった。しかしこれからの事件は、むしろ構造的なものに移行してゆくのではないか。 (参照)
これは高年齢化に関して語られたものですが、
今回の事件であぶり出されている家族内の状況は、ひきこもり周辺では特に珍しくもないはずです。
長期的には、「いちど引きこもったらもう2度と社会復帰なんかできない」という絶望的状況や本人の葛藤を、総合的に改編してゆく必要があります。 しかし短期的・緊急避難的には、長期的スローガンは役に立ちません。