『家族─ジェンダーと自由と法』「はしがき」(水野紀子)より:

 日本家族法は,親族法も相続法も主としてフランス法を継受している。 (略) ニコラ・マティ「社会生活の契約化─フランス法における家族という実例」はフランスの新進気鋭の民法学者による論文で,フランス家族法の変化を契約化という視点から概観する。

 中川善之助(なかがわ・ぜんのすけ)家族法学説は,戦後家族法を代表して通説・判例となっている家族法理論である。中川理論への批判も最近は少なくないが,実務が中川学説を受容してきた背景には,日本社会にあるそれなりの必然性があったのかもしれない。 (略) 現在の民法学界の頂点に立つ大家による,大村敦志「『家族法における契約化』をめぐる一考察─社会的に承認された契約類型としての婚姻」は,第2章にあるニコラ・マティ論文と呼応して,契約化という観点から,家族法立法の本質的な意味と今後の展望を分析する論文である。


 私法の領域のうちで比較法的な研究が最もすすんでいるのは、家族法である。血縁的集団としての家族がすべての国において存在しながら、そのあり方は、経済的というよりも民族的宗教的政治的風土によって決定され、資本制社会に移行した後もなお一国的さらには地域的特徴をよくのこしている。家族法のあり方が国によって大きくことなるのはそのためであって、ここに比較対照上とりわけ興味深いものがある。しかし、家族法の比較研究が大きな魅力を呈する理由はそれだけでない。家族法の伝統的な諸特徴=多様性にかかわらず、現代資本主義下の家族生活の深刻な危機に対して国家が積極的に介入する傾向が共通に見出され、《家族問題−家族政策−家族法》の総体的な把握が強く要請されるにいたっている。 (『フランスの家族法 (東京大学社会科学研究所研究叢書 第 64冊)』はしがき、強調は引用者)

 《家族法を法たらしめるのは、家族の関係が社会的な財産秩序にその特殊な一環として組み込まれているいることによるのか、それとも社会的な財産秩序とは別の弱者保護のための特別の仕組みとして重視されることによるのか》という論争があることを知って、 (同書)




*1:親権・後見・扶養 (講座 現代家族法)』掲載、深谷松男「生活保持義務と生活扶助義務」p.189参照