≪課題共有≫に向けて

脱落する権利と再チャレンジの権利」、「属性共有と課題共有」、それに1月7日に杉田俊介id:sugitasyunsuke)さんと交わした議論などから、企画案を整理してみます。*1
【今日のエントリーは骨子の草案であり、今後も繰り返し立ち返る予定です。 これまでに考えてきた様々な論点が、この企画案のテーブルで再整理できるように感じています。】





*1:ぜひ、杉田さんのエントリーも熟読してみてください。 私が取りこぼしている論点も提示されています。

マイノリティ問題には、次の2段階の困難がある

  • 既得権益層とマイノリティの利害が一致しない
    • マイノリティの問題は、当事者・関係者にとってそれがいかに深刻でも、既得権益層にとっては「他人事」。 それどころか利害が対立しさえする。 【「弱者保護は強者のマイナス」】
    • あるマイノリティ問題の当事者は、別のマイノリティ問題の既得権益層。 【ex.「ひきこもり」と「同性愛」】
      • → 「マイノリティ既得権益層」で課題共有できない。


  • マイノリティ同士が「深刻度競争」を始めてしまう
    • 例えば、「ひきこもりよりも野宿者のほうが深刻だ」など。 さらに同じマイノリティ内でも、「君よりは私のほうが深刻だ」。 【「真のマイノリティ」競争、「偽ヒキ」*1問題】
    • しかし、そもそも「議論に参加している」時点でかなり恵まれているはず。 「誰がいちばん深刻か」の競争においては、「不可視の他者」、いや究極的には「死亡者」に近づくほど「尊重される権限がある」ことになるが、こんな競争をしていては当事者間で努力を共有できない。
      • → 「マイノリティ間」で課題共有できない。






*1:参照1】、【参照2

対策として次の2段階を考える

  • ≪★何度脱落しても、自由に再復帰できる社会★≫という、あらゆるマイノリティ間で共有できる(と思われる)課題フォーマットを設定する。
    • 各マイノリティによって、また各個人によって事情(属性)は異なる。 各人は複数の属性をもち、帰属は複層的(「ひきこもりかつ女性」「障害があるが裕福」など)。 この「属性」レベルで「深刻度競争」を始めると収拾がつかないが、≪脱落しても復帰できる社会のほうが生きやすいじゃないか≫という、全員に利益をもたらす「課題」を共有できれば、各人の属性や境遇に関係なく、一緒に努力できる*1
    • 「脱落復帰問題」*2あるいは「再復帰問題」として大きなフォーマットを設定・共有したあとは、各マイノリティの個別問題*3、あるいは就労・住宅問題*4といった共有テーマについて、分科会的に精密化・再編成すればいい。 【重要なのは、課題の「編集」とその「共有」】


  • この大きな課題フォーマットは、既得権益層の利益にもなる課題設定であることを提示する。
    • 脱落経験を持たない人にとっても、「一度脱落したら終わり」という社会環境に幻滅やストレスを感じる人は多い*5。 つまり「脱落しても復帰できる」という社会環境への努力は、マイノリティではない人とも共有し得るはず。 【属性は関係ない、課題さえ共有できればいい】
    • 脱落への不安を持たない圧倒的富裕層・経営者や、国政レベルの既得権益層に対しては、「再復帰可能な社会のほうが精神環境が良く、生産性が上がる」といった説得を試みる。 つまり、「脱落者は可哀相なんだから*6、人道的に支援すべきだ」ではなく*7、「あなたや国全体の利益になる」ことを、漠然とした予測ではなく「データ」で示す。 【たとえばある会社では、法定雇用率に従って障害者を雇用したところ、「こういう人も居ていいんだ」ということで職場の精神環境が良くなり、会社の成績が上がった、という*8。 こういうデータが積み重なれば、理念的には「弱者支援」を共有していない人とも、≪再復帰問題≫を共有できる。*9






*1:この課題にすら反対するマイノリティ当事者は、「私の個人的課題をこそ最優先しろ!」と無条件に主張しているのではないでしょうか。 それだって「課題を共有しましょう」という呼びかけと提案であり、私が言っている「≪課題共有≫に向けて模索しましょう」という呼びかけと同じ構造のはずです。 ▼自分が苦しくなっている人は、どうしても「私の問題を最優先にしてくれ!」と言ってしまいますが(そして実際に課題の緊急性はあり得ます)、それでは「課題共有」がまったく模索できません。 そしてこの「課題の共有できなさ」が、マイノリティにとって極めて致命的な不利益になる

*2:杉田さんによる仮称

*3:「再復帰できない」にも様々なディテールがある。「履歴書の空白」、「育児休暇を取った女性」、「高齢者」、など。

*4:「就労問題」は「ニート」の話題性などから注目されているが、「住宅喪失 (ちくま新書)」も重要のはず。【参照:「復興住宅」】

*5:はてなダイアリー」内のどなたかがTrackBackと共にくださったコメント(どなたでしたっけ・・・)

*6:「共感主義」の限界。 【参照

*7:もちろん短期的・あるいは長期的な政策論にそうした議論が必要な局面はあると思う。 この辺については、「リベラリズム」等々の問題としてあらためて勉強したい。

*8:残念ながらソースを確認できず。 どなたか、そのようなデータをご存知ありませんでしょうか。

*9:手段はともあれ、「結果を実現する」のが政治的には重要のはず。 対案を示そうともせず「経営者の味方をするな」等の形式的理念ばかり口走る人は、まるで「課題を共有」しておらず、結果的に(自分を含む)弱者を窮地に追いやっている。 やりきれないジレンマですが、反論するのであれば、具体的に「共有できる課題」を提示すべきではないでしょうか。

関連メモ

  • 社会的排除」と「再復帰不可能」については、生田武志さんの「イス取りゲーム」*1と「カフカの階段」の比喩が秀逸。
    • 特に「カフカの階段」は素晴らしい。 1月9日にお会いした際には、「社会に復帰するほうも階段状にするにはどうすればいいか」という課題示唆を頂いた。 → これはまさに、≪再復帰問題≫の具体的ディテールを意味しないか。


  • 「自分を一つのカテゴリに縛り付ける必要はない」という杉田俊介さんのご指摘は、以前に岸政彦さんからいただいた示唆に関係する。
    • 私にはいくつもの属性があるのだし、私の人生が「ひきこもり問題」に支配されるわけではない。 しかし私が「脱落経験者」として差別と排除の対象になるなら、いったん一つのカテゴリで脱落者問題を引き受ける必要がある(でないと単に「問題の隠蔽=加担」や、「泣き寝入り」になってしまう)。 その取り組みは≪再復帰問題≫フォーマットを通じて他の人々と努力を共有できるし、私にとっての「ひきこもり経験」は、この課題フォーマットへの入り口となる。 【各人には各人の入り口があっていい。】






*1:生田さんによると、「旗までの距離を差別化したビーチフラッグ競争」のほうが比喩としては正確だが、「イス取りゲーム」のほうがわかりやすい、とのこと。

皆さんへの呼びかけと、タイトル案募集のお願い

「この課題フォーマットを、キャンペーン化できないだろうか?」ということを、杉田さんと話し合っていたのですが・・・・。 皆さんと共有できるお話は、ないものでしょうか。
とにかく、≪課題を共有する≫形を模索したい。 今の時点で共有できる≪課題≫がないなら、その「共有できる課題」を析出するために、共同で努力したい。
何の益も生まない自己満足的な「反抗のための反抗」(対案を出さずに非難ばかり)や、嫉妬・勘違い・妄想による「弱者同士の傷つけ合い」(トチ狂った弱者の狼藉)は、もうたくさんです。


しかし、どうも「タイトル」で悩みます。 たとえば「若年者就労問題」と言っても誰も話題にしませんが、「ニート」と名付けられた途端大激論になる。 → 議論そのものの精緻化・複雑化とともに、≪単純かつキャッチーなタイトル≫が必要だと思うのですが・・・・。 何か、いいアイデアないでしょうか。
★というわけで、ここでタイトル案を募集させてください。




私自身、しばらくこの問題の周辺で考え続けてみようと思います。
具体的なご提案や、「○○を勉強しろ」、あるいは批判的なご意見など、ぜひ TrackBack やメールで声をかけてくださるとうれしいです。