「何の為にこいつも生まれて来たのだらう?」

芥川龍之介或阿呆の一生』、「二十四 出産」より。

 彼は襖側に佇んだまま、白い手術着を着た産婆が一人、赤児を洗うのを見下していた。赤児は石鹸の目にしみるたびにいじらしいしかめ顔を繰り返した。のみならず高い声になきつづけた。彼は何か鼠の仔に近い赤児の匂を感じながら、しみじみこう思わずにはいられなかった。――「何のためにこいつも生まれて来たのだろう? この娑婆苦の充ち満ちた世界へ。――何のために又こいつも俺のようなものを父にする運命をになったのだろう?」
 しかもそれは彼の妻が最初に出産した男の子だった。

「だったら子供を設けるなよ・・・」と思うのは僕だけでしょうか。
自分が「生まれてきてよかった」と思えないうちは、やっぱり子供を設けることは考えられない・・・。――って、産んでくれる人がいませんが。
「生まれてきてよかった」と心から思える日が、来るんでしょうか。