「工賃は1個1円、月給が4〜5千円」について

先日、広島県三原市のイベントにお邪魔した際、上記記事で批判的に話題にされた妹尾敏昭さん(71)と同席し、詳しくお話を伺えた。
妹尾さんは、かつて労働組合の専従を2年されていて、むしろ労働問題に意識の高い方。
多くの方が話題にしていたような、「搾取する悪徳業者」とはまったく違う話で、――要するに、ひきこもり支援の現場で何がどう苦しいか、事情を知らない人には理解されない。 (妹尾さんは、「運動論はとうに吹き飛んどる」と話されていた。)
本人の事情も支援の事情も理解されないまま、どんどん忘却が進んでいると感じる。
高齢化して閉じこもっていても、誰も話題にしない。





サービスの義務と責任

以前聞いた話だが、あるひきこもり支援団体の説明会では、

  「預けてあった子供が自殺したが、どうしてくれるのか」

と、団体代表が詰め寄られる場面があったとのこと。
アイ・メンタルスクール」のような犯罪性がまったくなくても、生きるか死ぬかの瀬戸際に追い詰められた人のお世話を志せば、トラブルに直面するリスクは高くなる。
支援の態勢が整備されていない現状では、支援される側からの不満や提言はどんどん口にされるべきだと思うが、どのような形でサービスと責任の線引きをするのか明確にしておかないと、「関わった以上は個人で全部背負い込め」というのでは、しかもそこにこれだけのリスクがあり、かつほとんどの支援団体が赤字というのでは、――支援を志す人が出て来ない。
それとも、「必要ないサービスだ」ということか。
ただでさえ複雑な事情を持った支援なのだから、責任の所在と、使い得る社会的資源の所在を明らかにしないと、支援活動自体が、社会的に遺棄されてしまう。







宮台真司氏のひきこもり論と、高齢化

http://podcast.tbsradio.jp/miyadai/files/sensei20061006.mp3 (音声ファイル)*1
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少し文字起こししてみます。(強調は引用者)

 ニートって言われてる人たちの半分は、「経験を積んで一皮向ければ社会に堂々と出て行ける」といったタイプじゃない人たちなんですよ。 もっと根が深い問題ですよね。
 根源的に自信がなかったり、根源的に対人不信であったり、根源的に不安や恐怖を抱いていたり、あるいはコミュニケーション一般に何の意味も見出せなかったり、――わかりやすくいえば、生きることが難しい人たちですね。 こういう方々は、同じ「ニート」と呼ばれていても、職業体験をするという程度でうまい人生を送れるというふうには実はなってなくて、もっと別の手当てが必要なんですね。
 じゃあ別の手当ては何なのか。 難しいんですが、論理的に考えるとこういうことですよね。 つまり、昔はそういう若者はあまりいなかった。 今はそういう若者たちがたくさん出てきているということは、おそらく生育環境ですよね。 育ちあがってくる環境に何か以前と大きな違いが生じたんだろうと思われるわけです。 どういう違いが生まれたんだろうかということを分析して、まずい部分を行政的、あるいはNPONGOでも構わないんですが、補完してゆくという作業が必要なんですね。
 つまり生育環境そのものをいじらないと、うまく対処できないような若者層が半分。 それは職業体験型のプログラムというような形では救えない。 生育環境そのものを直さないと救えない。 ただ、まだそこまで、つまりニートにも二種類あるということはちゃんと気付かれていないし、特にいまお話をした二番目の問題は、街づくり・街のあり方そのものに関わる非常に根本的な問題だということも、実は気付かれていないので、ちょっとした対症療法で解決できるところに注意が行きがち。



番組冒頭で、子供向け職業体験テーマパークとして紹介されている「キッザニア」HP*2には、次のような言葉がある。

 「こどもたちの未来を開くカギは、ここにあります。」
 「こどもが主役のこどもの街。 キッザニア!」



全国ネットワーク「KHJ親の会」のアンケート(PDF)では、ひきこもっている人の4割が30歳を超えている。 直接お話を聞く中でも、38歳の私と同世代の事例は珍しくもなんともないし、先日お邪魔した地域では、現役でひきこもっているご本人が51歳、母親が76歳のケースがあった*3
「親の会や講演会に親が来ているのは、異例なまでに高齢化したケースだ」と見るだろうか。 宮台氏は上の番組で、「生育環境をいじるべき」というのだが、将来世代に向けては是非そうしていただくとして、「すでに長期間閉じこもり、中年期に突入した事例」については、どういう対処があり得るか。 ▼「街づくり」というのだが・・・


たとえば私は、ひきこもりとは関係ない集まりで自己紹介した際、かなり露骨に軽蔑的な態度をとられることがある。 ほかの人の体験談でも、「職場で過去のひきこもり体験を話した途端、同僚が口をきいてくれなくなった」などの話を聞く。
もともと人間関係や社会生活にしんどさを感じているだけでなく、「ひきこもっていた」という過去によって、ますます追い詰められる。 もちろん、元気な人ですら耐えられない過酷な労働条件が、これからもずっと待ち受けている。



*1:番組: 『TBS RADIO podcasting 954

*2:民間の企業だとのことだが、「私のしごと館」の信じ難いつまらなさ(建設費580億円+毎年赤字20億円が雇用保険料から注ぎ込まれ続けている)に比べれば、ずっと魅力的に見える。

*3:大学を出た直後に一度2年近くひきこもり、その後なんとか就労。 20年勤め上げたあと、50歳を目前に実家で引きこもってしまい、すでに2年が経過したとのこと。