「文脈がわからなくなる」

私は日常的に、自分の生きている前後の文脈がわからなくなり、
それは理知的にわかるとかわからないとかいう悠長な体験ではなくて、
発作のように向こうから襲ってくる非常に制御しにくい感覚で、
歩いているときにいきなり上下前後左右がわからなくなって卒倒しそうになり、しゃがみこんだりする。 意味の脱失。


自分がいま生きてしまっている現実がすごく投げ捨てられていて、
いわば神はもうここを見ていない、 まったくそれを生きる価値がない、
自分のいる場所はもう大切なものを再現できない、
本質的には祝福されることが二度とない
――ような感覚。


私が妙な質問でなんとか説明しようと試みたのは、その脱失感であり、
その脱失感に襲われつつもそれでも自分の人生を、トラブルでしかあり得ない社会参加の努力を続けていくコツを、言葉で説明しようとしたのだった。


物欲ではこの発作はおさまらないし、
愛情や酩酊ももう期待できない。
自分のいる場所で繰り返し自分を建て直さなければならないのだ、