映画『40歳の童貞男』鑑賞



町山智浩さんの評を見て期待してたんだけど、がっかり。


【以下、ネタバレ注意】



  • 40歳になるまで恋愛もセックスもできない男の精神がどれほどズタズタに痛めつけられているか、その鬱屈した傷の描写がまったくない。仮に現在はそれを克服できているとしても、そういう過酷さを通過したあとの何かがあるはず。童貞を下品にコケにして笑ってるだけ。
  • 女性たちにぜんぜん魅力がなく、「この人に気に入られたいけど、どうにもならない」という苦しさがぜんぜんない。逆にいうと、女性を神聖視するバカバカしさがすごく説得的。(そのバカバカしさに気づいてもらうことで、苦しんでいる男性に楽になってもらおうとしている・・・・というのは、好意的すぎるか)
  • 40歳まで童貞だったはずなのに、会ってすぐに気に入ってくれる女性がつぎつぎ出てくる。仕事もできるし、設定上オタク趣味を無理やりつけただけで、基本的にはすごく社会性のある男性。 「お前みたいな男は、生きてるだけでセクハラなのよ」というような、女性から受ける差別の描写がない。
  • 「人間は○○じゃなきゃいけないのに、お前はそうはなってない」という下品さばっかり。会話も下品で耐えられない。職場にああいう同僚しかいなければ、「ひきこもってました」なんて言えるわけない。 性愛経験のある男は、どうして未経験者に居丈高に自慢するんだろう。差別的な男根主義がむき出しで、それを反省する描写もない。
  • こんな退屈な作品が、北米だけで 1億ドル以上の大ヒット・・・? それにもがっかり。 人間の肉体に性愛の機能があるのは、基本的には屈辱でしかない。 ――いいも悪いもなく、すべてを「どうでもいい」と思うあたりに生き延びるコツがあり、性愛の可能性もある気がしているのだが、そういう本物のリアリティはまったくない。 凡庸な「君に出会うために」で終わる。


      • 【追記】: 「40歳の童貞男というと気色悪い印象だけど、こんなに愛らしい存在ですよ」と、ネタにして愛情たっぷりに笑い飛ばしてくれた映画、ということでいいのかな。でもそれだけでは、差別的で抑圧的な目線の制度は変わらない。