劉慈欣『三体』読了

いまひとつ夢中になれないまま『III 死神永生』下巻の半ばまで来たんだけど、最後の最後に次々出てくるSF的なアイデアが本当に、本当に素晴らしかった。(以下すごいネタバレなので注意)


通俗的な科学解説本で読んでいた「時間」「次元」「光速」などが絡み合って、人類史や自分の意味(あるいは無意味さ)に直面させられる感じ。これを読んだって何が変わるわけではないのだけど、哲学本を読むのとは別の切り口で、自分のいる場所と時間を感慨深く見るようになる。

巻末の解説によると細かくはデタラメな部分もあるようで――この『三体』に登場するさまざまな描写や技術について、専門の学者や技術者にじっくり解説してほしい(書籍化されればぜひ読んでみたい)。とくに最後に登場する、「次元を下げることで相手の宙域全体を潰滅させる兵器」なんて、ちょっと鳥肌が立った。いま私たちが見ている宇宙や物理定数は、戦争によって作為的に作られた後の姿なのかもしれない。「空間3次元+時間1次元」も、「光速が秒速30万km」なのも、以前はもっと別の設定だったのかもしれない――これは凄まじい。

人間のやることが宇宙の命運に影響するとして、ではその「人間のやること」は、物理法則の枠内にあるのだろうか――といったお馴染みの哲学的疑念も、物語の要素になってる。そして私がここで何をしようがどうしようが、その物理的痕跡はわずかな時間で消えてしまう、つまり「何もなかった」のと同じになる、ではここで何をしているのか――。記憶媒体の劣化もそうだけど、いま生きてる人の名前や言動なんて、100年もたてば誰も覚えてませんよね。そしてどのみち、ほとんど何もできない。では「ここで」、何をしてるんだろうか。

たいへんな話題作だし、ネタバレを気にせずに議論を共有したくて義務的に読み始めたんですが、最後の最後で報われた感じです。あとはこの作品を巡って、あれこれ雑談してみたいな。