映画『TENET テネット』(ネタバレあり)

TENET テネット(字幕版)

TENET テネット(字幕版)

  • 発売日: 2020/11/27
  • メディア: Prime Video

いちど観ただけではほとんど何も分からず、考察ブログ等参照1】【参照2で調べたあとで、再視聴。ようやくあるていど理解した。


不可解というか、決定的におかしいと思うのは、この作品世界では逆行装置(回転扉)に入るかどうかの自由意志が《唯一絶対の時間軸》において決定済みで、これから自分が迷った挙句に「やっぱり行くことにした」といった変化がまったくない設定だということ。最後の場面でニールとの別れに涙する主人公は、それでも「じゃあ君と一緒に行く」とは言わず、黙って見送る。つまり、ニールだけを死にに行かせる(過去に向けて)。

逆行装置(回転扉)はあちこちにあるのだから、何かが納得できない結果に終わったときは何度でもそこに入ってやり直せばいいはずだが、それはこの世界では想定されていない。セイターのような悪人すら、「回転扉は無限回使える」という前提ではどうやら動いていない。そこに説明がないのも今一つ。

作中では「祖父殺しのパラドックス」が語られるが、もし未来にタイムマシンや逆行装置が開発されるなら、今の私たちの周囲には未来人や逆行人が大量に溢れているはずだ。しかしまったく1人もいない。とすると、(1)未来永劫タイムマシンは開発されないか、(2)時間の矢に逆らった瞬間に別の時間軸に飛ばされるか、いずれかでないと辻褄が合わない。

私の感覚だと、現実というものが極限的に残酷でつらい理由のかなりの部分は、《時間》に関わってる。それは、絶対にやり直しがきかない、猶予もない、待ってくれない。耐えがたい事件のあとで、わずか10秒前に戻ることすらできず、抵抗できない一方的な流れを押し付けられている。そして今のところ有名物理学者によれば、時間の順序は変更できない。これは人類の絶対的な条件だ。

時間について、何か人為的な、工学的な工夫があり得れば、この現実の残虐さは改善できるんじゃないか。先日読んだ非局所性などを手掛かりに*1、人類と時間のかかわり方に、何か根本的な変化は起こせないものだろうか――などと考えることは、現状では最悪の現実逃避にしかならない。なぜなら時間だけは誰にもどうにもできないから。どうにもできないことについて考え続けるのは、みじめな現実逃避になってしまう。それは結果として、自分の状況を悪化させる。

この映画は、時間をめぐる人間の条件づけについて考えさせてくれる。ギリギリまで考え抜いた時間と映像のトリックを見せてくれる。しかしそのからくりを、それ自体をパズルのように楽しめないと、虚脱感に襲われる。「時間だけはどうにもならない」という絶望的な現実を突きつけられ、檻の中に監禁されているような気分になる。

私が視聴したのは数日前だが、それ以来なぜか「時間逆行」というこの映画の設定だけを借りた、この映画本編とは何の関係もない夢を毎日のように見ている。



*1:非局所性というと空間的なことばかり考えがちだが、空間的な非局所性は時間的な非局所性も意味する――と理解する研究者もいる参照