葛藤 | 紛争 | 病気・障碍 |
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心理 | 社会 | 物質 |
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- 単に直線的な階層ではない
- 存在はトラブルでしかあり得ない
- 思考や理論それ自体が、この絡まり合いのさなかにある
医師法第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うこと
ひきこもり問題をこれだけで語ることはできない。
精神科系全般に言えることだが、医療従事者に担われた支援すべてが器質的身体に終始するわけではない。 逆にいうと、身体以外については何の専門性も期待できない。
支援対象者の役割理論的位置づけ(参照)と同時に、支援行為の社会的フレームも問われる。そこがあいまいだと制度化しにくい。 「医療従事者がやっているから医行為」では粗雑すぎる。
■「ホームヘルパーに許される医療行為の範囲は」(内閣府HP、回答は厚労省)
急変が生じた場合で医師、看護師等による速やかな対応が困難であるとき等において、医療関係資格を有さないホームヘルパー等が緊急やむを得ない措置として「医行為」を行うことは、それが業(なりわい)として行われるものでない限り、医師法第17条(医師でない者の医業の禁止)に違反するものではありません。
反復性・継続性がなければOK――ひきこもり支援の多くは、「業として」なされている。
その業(なりわい)は、主観性と関係性に懸かっている――そんなことを専門にする学部はない。
■「いわゆる“最高裁判決(昭和35年1月27日)”とは」(鍼灸マッサージ無資格・無免許情報)*2 cf.【原判決】
あん摩師・はり師・きゅう師に関する法律〔参照〕第217号12条「医業類似行為の禁止」は合憲であり、憲法22条(職業選択の自由)にも合致したものであり、人の健康に害をおよばすおそれのある行為は禁止処罰対象となると述べました。
身体への侵襲性を伴う行為については、無免許は認められない。
いっぽう「カウンセリング」(心理的・関係的侵襲行為)に免許は要らないが、相談業務には大きな危険がある――かといって、免許を創ればいいとも言えない。 政治的・思想的含意を無視した免許制度は、事柄の危険性に即した配慮を持っていない。
ひきこもりの支援団体にアクセスしたことでかえって酷い状態になったケースは、たくさん(と言ってよいほど充分)ある。 ⇒支援環境を私的自治の原則に任せきることで、「多様性が保持できている」と言うべきかどうか。単なる野放しは、画一的な誤りに支配されるように見える。
身体への侵襲がなく、薬を使うわけでもないが、関係性それ自体に生死に関わるような要因がある――私たちの関係性は、つねにそういう要因を孕みながら営まれている。つまり臨床性の責任は、この社会に生きる全員に問われている。
ここで問われる専門性にあっては、身体医学には副次的な位置づけしかない。 今のところ、「医師でなければ関わってはいけない」ということではないが、逆にいうと医師であれば専門性が期待できるというわけでもない。 身体医学にいくら詳しかろうと、関係性や主観性については何を知っているわけでもない――そして、関係性や主観性について信頼できる専門家がどこにいるというのか。
再帰的な問題意識の高まった現在、そんな人は地球上に存在しない。ジャンル自体をこれから創るしかない。
■「医行為・医業類似行為関係法規の現在」(総務大臣所管・日本予防医学行政審議会)
私達は生計を立てるため何かの職業についています。その仕事を大別すると官職(各種公務員など)と民間職(官職を除く全ての職業)とに分かれ、さらに職業を法的に分類しますと次のようになります。
- (1)職業に従事する者の身分を法律で定めた身分保証法による職業
- 身分保証法による職業とは、医師、歯科医師、薬剤師、弁護士、あんま師圧、マッサージ師、看護士、理容師、美容師他、法律で定められた身分を取得しなければ業務することの出来ない職業を言う。
- (2)職業にするその場所の規定を定めた業法による職業
- 業法による職業とは、旅館業法による旅館業、公衆浴場法による公衆浴場、興行場法による映画館、演劇場、クリーニング業法によるクリーニング店の営業等をさします。
ひきこもり支援それ自体を資格化する動きもあるが(参照)、
本当に必要な専門性についての原理的研究がないままでは、皮相なものに終わってしまう。
紛争としての「ひきこもり」に要請される特異な問題意識のあり方に、正当な位置づけが必要だ。
現状では、必要な議論に制度的居場所が与えられず――というより、ひきこもりの内的事情が、安易な専門性を許さない*3――、社会現象として、不当に既存の問題図式に落とし込まれている*4。
【追記】 NHKニュース 「ひきこもりからの就職を学ぶ」(動画あり)
厚生労働省の調査で、全国の少なくとも26万世帯が抱えているとされるひきこもりの人の支援として、精神面のケアとともに、どうやって社会と接点を持たせ、就職につなげるかを学ぶ研修会が開かれました。
研修会は、厚生労働省が去年まとめたひきこもり支援のガイドラインを学ぶために開かれ、東京・中央区の会場には、保健師や精神保健福祉士などおよそ120人が参加しました。この中では、名古屋市でひきこもりの就労支援をしている精神保健福祉士の榊原聡さんが講演し、「ひきこもりの人は、自分を低く評価し、物事がうまくできるか不安が強い」と指摘したうえで、具体的な取り組みとして、身近なことで成功体験をさせたり、自治体と連携し、就職したあとも定期的に相談を受け付けたりしていることを説明しました。 (略)
研修会を主催し、ガイドライン作成の主任研究者を務めた齊藤万比古医師は「これまでのひきこもり支援は、精神面の相談と就労支援がつながっていなかった。今回、研修を受けた方々に全国に広めてほしい」と話していました。 (1月24日 23時38分)
名前 | 所属 | 発表タイトル |
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厚労省担当官 | 厚労省 | ひきこもりに関する行政上の対策(仮題) |
齊藤万比古 | 国立国際医療研究センター国府台病院 | ひきこもりの評価・支援に関するガイドラインについて |
伊藤順一郎 | 国立精神・神経医療研究センター | ACT のひきこもり支援における可能性 |
榊原聡 | 名古屋市精神保健福祉センター | ひきこもりの就労・社会参加支援 |
小野善郎 | 和歌山県精神保健福祉センター | ひきこもりの地域総合支援システム(和歌山県での実践) |
新村順子 | 東京都精神医学総合研究所 | ひきこもりの家族支援と家庭訪問 |
小林將元*6 | 北大阪若者サポートセンター | ひきこもり支援における NPOの実践と課題 |
近藤直司 | 山梨県立精神保健福祉センター | ひきこもり支援の今後の課題 |
*1:「bio-psycho-social」という表現があるが(参照)、思考それ自体が政治的・法的葛藤のさなかにあることを未だ忘れたままに見える。
*2:昭和35年(1960年)というと、すでに半世紀前。 参照:「医業類似行為に対する取扱いについて」(厚労省)
*3:本気で考え始めると、既存の専門性を裏切ることを余儀なくされる。 ディシプリンにこだわる者は、ひきこもりという現象を裏切る。 単なる優等生では、ひきこもりを考えることはできない。
*4:発達障碍に関する議論は、器質問題に還元されるため、「社会的ひきこもり」と呼ばれる事情については思考停止にすぎない。
*5:《平成22年度厚生労働省『こころの健康づくり対策事業』による「ひきこもり対策研修」受講者の募集について》