各ポジションにおける言説事業と、目の前の関係性

現代思想2010年10月号 特集=臨床現象学 精神医学・リハビリテーション・看護ケア

現代思想2010年10月号 特集=臨床現象学 精神医学・リハビリテーション・看護ケア

  • 作者: 木村 敏,村上 靖彦,宮本 省三,河本 英夫,西村 ユミ,松葉 祥一,熊谷晋一郎,綾屋紗月
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2010/09/27
  • メディア: ムック
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木村敏 メダルト・ボスですが、彼は現存在分析は治療技法だと言うのです。これについては彼と私とで全く意見が合わなかった。私は絶対に治療技法ではないと言ってかなりの議論を交わしたことがありました。
村上靖彦 それは不思議ですね。ビンスヴァンガーからしてちがうと言ってますからね。
木村敏 ビンスヴァンガーとボスは当然意見が合わなかったのです。ビンスヴァンガーに治療はどうしているのかと聞いたら、まだほとんど抗精神病薬のない頃ですから、精神分析をやっているのだと言っていました。統合失調症精神分析で治るはずがないのですけれどね。
 とにかく治療技法としての現象学はあり得ないだろうと思います。私たち精神科医は家族から依頼されて対症療法を引き受け、抗精神病薬などを使う。ただ、そういうかたちで治療していても、結局は診察室や病棟で長い時間一緒に過ごすのは患者さんと私たちですから、もちろん仲もよくなりますし、患者さんにとっては私という人間はいなくては困る存在にはなる、自分のことをわかってくれるたった一人の人だということになるわけで、そういう存在になっていることだけでよしとしなければいけないのではないでしょうか。 (p.54)



本人側の肉的な言説事業に、何も期待されていない・・・
「医師や哲学者のメタ言説」と、オブジェクト・レベルにある関係性や本人の言説は、分けられたままなのか。


この対談にはアンリ・マルディネの名も出てくるが、現象学的な問題意識と治療技法の関係というと、反精神医学(R.D.レインほか)や制度論的分析(ジャン・ウリやフェリックス・ガタリ)を無視できない。 ⇒今回の特集では、廣瀬浩司氏が批判的に取り上げておられる*1



*1:《「反精神医学の闘士」と自己の「現実」 フーコー『精神医学の権力』と制度の臨床現象学》(参照