調査倫理について

貴戸氏の手続き上唯一疑問が残るのは、「初版出版前に奥地圭子氏に直接許可を取らなかった」ということだが、取材対象者の発言内容について、奥地圭子氏に検閲権限があるのだろうか。
貴戸氏は、第2版出版前には東京シューレから修正要求表を受け取っており、その上で現状の重版に踏み切っている。 つまり第2版の問題は、「許可を取ったか否か」ではなく、「シューレ側が同意できない解釈を主張している」ことである*1
貴戸氏が削除・修正に応じて以後に当事者2名がおこなったクレームは、「手続きへの抗議」ではなく、「解釈レベルへの反論」でしかあり得ない。


以上を踏まえた上で、なお貴戸氏の「調査倫理」に問題があるとする者は、次のように主張していることになる。 (これは私によるまとめで、貴戸氏の見解ではない。)

    • 取材対象者(インフォーマント)*2から得た情報については、取材対象者本人のみならず、その人物の所属団体トップにも出版・公開許可を取らねばならない。 取材対象者本人には、自分の情報について許可を与える最終権限がない。
    • 公刊物に基づく言及・引用についても、当該団体や発言者に直接許可を取らねばならない*3
    • 取材対象者および関係団体トップ全員から、≪解釈≫レベルでの同意を取り付けねばならない。
    • 事前に出版許可を得ていても、出版後にその許可をひるがえされれば、著者が道義的に責任を負う。 重版時に削除・修正要求に全面的に応じても、さらに非難され続ける義務がある。

「シューレ大学」の2名がどうして出版後に許可をひるがえしたか、その理由について本人たちに取材したかったが、今回はシューレ側に取材に応じていただけなかったため*4、断念した。



*1:念のため繰り返せば、取材対象者15名中7名は、シューレとは無関係である(所属経験がない)。

*2:informant、情報提供者

*3:「当事者」の場合には、インタビューにあってすら「発言者本人」に許可権限がないが、それ以外の発言者の場合には、公刊物への言及に対してすら検閲権限がある、と主張していることになる。

*4:あくまで感情レベルの要因としてだが、今回の案件がシューレの「20周年」の時期にちょうど重なってしまったのは、いかにも間が悪い・・・・。