今回取り上げた諸問題については、今後も継続的に考えてゆきたいと思っています。*1
レポートの最後に、報告者である私の簡単な覚え書きと、リンク集を作ってみます。
メモ
- 「当事者の言葉」は、いわば《原典》として扱われる。しかし、そこにはすでにズレが生じている。体験情報の原典性と、本人の意識による解釈。後者については、批判される可能性があり得る。(「アカデミック・サークルに居るかいないか」は、アリバイとして関係ない。)
- 一定の解釈を紡ぎだす調査者は、いわば「翻訳者」として非難される。「翻訳を間違った」こともあれば、「実際に言ったのだが、オフレコだった」こともある。「口にしていい言葉」は、社会的・心理的な力関係の中で決められる。
- 当事者発言の原典性は、その言語としての脆弱性や、言葉のコードに乗らない「言葉以前の何か」に淵源を持つ、独特の「オリジナリティ」に求められる。しかし当事者の体験や言葉は、それ自体としては基本的に陳腐であり、「サンプルのひとつ」にすぎない。「体験の深刻さ」と、「文化的オリジナリティ」は別の基準。
- 「当事者」という言葉の強調には、傷ついた人間についてうかつな口をきいている連中への怒りがある。言葉の脆弱性を原理的要因とするタイプの当事者と、そうではない当事者に対しては、調査倫理が(少なくとも量的に)違ってしかるべき。
- 運動体は、体験情報の解釈権を独占しようとする。それは、「体験を守る」ために一定の役割を果たしつつ、既存の解釈枠に掬われていない新しい体験情報の可能性を抑圧する。弱い存在である当事者が、強者たち(既存アカデミズムや運動体)と解釈権で争うためには、アカデミズムの手続きを必要とするのではないか。
- 当事者は、原典としての体験情報を持ってはいるが、それは解釈者やアイデアマンとして優秀であるための条件の一部に過ぎない。体験としての真摯さは、解釈やアイデアの優秀さを保証しない。
- 《当事者による研究》(当事者学)が、モチベーション・レベルで格別の強度を持つのは当然だとしても、取材プロセスや解釈結果について、「当事者ならでは」のクオリティや差異を主張できるだろうか。できるとすれば何か。
- すべての原典(体験情報)が尊重されるわけではない。尊重は社会的決定事項であり、政治的に優先順位が決められる。*1
リンク集(一部)
今回の案件に関連し、参考にさせていただいた記事のリンク集です(敬称略)。
見落としもあると思いますし、随時追加しようと思います。
ほぼ時系列順です。
- 【転覆要素としての当事者】(田中俊英)
- 【社会を変える“当事者”たち】(上野千鶴子)
- 【貴戸理恵『不登校は終わらない』のレビューがおかしいぞ。】(id:hikilink)
- 【「東京シューレ」VS『不登校は終わらない』】(id:hikilink)
- 【東京シューレの見解について】(id:about-h)
- 【東京シューレの見解について 追記】(id:about-h)
- 【永遠の問題】(岸政彦)
- 【『不登校は終わらない』は終わらない】(常野雄次郎)
- 【『不登校は終わらない』と東京シューレの『見解』について】(みるく)
- 【続々・調査倫理について】(石川良子)
- 【今日は普通の日曜日なので仕事します(予定)】(岸政彦)
- 【貴戸は本当にシューレを批判していたのか?】(id:about-h)
- 【ちょっと気になっている対立】(荒井賢)
- 【貴戸本騒動 クリップ】(id:about-h)
- 【「当事者」をめぐるノート】(id:matsuiism)
- 【貴戸理恵vs東京シューレ】(内藤朝雄)
- 【当事者=研究者=媒介者のトリレンマ】(樋口明彦)
- 【「当事者」なんぞ知るか。】(稲葉振一郎)
- 【「他者」を理解することはどこまで可能か】(れつ)
- 【“貴戸祭り”をあおらないで】(ぱれいしあ)
- 【自己理解をめぐる正当・正統性争い】(ぱれいしあ)
- 【運動系な人たちを批評することの難しさ】(R30)
- 【東京シューレ見てきました】(essa)
- 【当事者の語る物語と構築主義者の語る物語】(太郎丸博)
- 【外から批評する人・中から批評する人】(ふやふや)
- 【奥地圭子さんからの返事】(ぱれいしあ)
- 【フリースクールも「学校」?】(axel69)
- 【「二つの〈当事者学〉」の政治学】(id:takiguchika)
- 【あわびが大漁で困ってます】(岸政彦)
- 【「事件」をめぐるノート】(id:matsuiism)
- 【当事者の機能とは?】(id:about-h)
- 【ひさしぶりに朝帰りした。いやはや、若い(以下略)】(岸政彦)
- 【「数え入れられない」人々】(id:matsuiism)
- 【『Fonte』(旧・不登校新聞)メーリングリストへの投稿】(常野雄次郎)
- 【炎上】、【ケンカ】(常野雄次郎)
- 【またひとつ、青春のしっぽが切れた。】(内藤朝雄)
- 【内藤朝雄氏と常野雄次郎氏のやり取り】
- 【貴戸も常野もシューレも支持しないが内藤は支持する、ということで。】(稲葉振一郎)
- 【「電話工作」についての内藤朝雄さんの主張について】(コメント欄に貴戸理恵)
- 【内藤朝雄さんへ】(常野雄次郎)
資料:
- 東京シューレ:「貴戸理恵著『不登校は終わらない』に対する見解」 【追記:2005年11月4日現在、削除されている。】
- 貴戸理恵:「東京シューレ『見解』へのコメント」(PDF) 【同文 HTMLバージョン】