「超越論的な制度論」の二大潮流

正義のアイデア

正義のアイデア

原書のアマゾン・レビューより:

 著者は、ロールズの正義論から啓発されたことを断りながら、彼の正義論の限界を指摘する。センは、これを方法論的に"transcendental institutionalism"(超越論的制度主義) と呼び、自らの"Realization-focused Comparative Perspective"(現実志向型対比視点)を対置させる。Hobbes, Rousseau, Kant など契約論的系譜が属するとされる前者の問題点について、センは以下のように語る。要は「正しい制度は・・・?」と問うことで正義の問題を尽くすことはできない。なぜなら「どんな正しい制度」でもその運用において不公正や不正義が避けられないのだから、その現実の不正義を問題にする態度を堅持することが重要なのだということになる。 http://amzn.to/Iu7IXk



唯一絶対の《正義の制度》を設計する事業として、ロールズの政治哲学は構想されている。
それをアマルティア・センは《超越論的な制度主義 transcendental institutionalism》*1と呼んで、批判している―― そのことに気づいて、訳書と原書をあわてて取り寄せ、ずっと読んでいる。


次のようなページも。 incentive論/institutionalism関連(「堀田義太郎のホームページ」)より*2

 「正義=制度/道徳=行為」の二元論の再検討という文脈で展開されているいくつかの議論の紹介です。

 A・センの『正義のアイデア』(2009)も(遅まきながら)一部でコーエンにも言及しつつこれに関連する議論を「制度主義」という語を使って展開しているが、センの議論は制度と行為の二元論への批判というよりも、むしろ「超越論的アプローチ」批判のほうに力点がある。センの議論では制度主義は、最終帰結主義功利主義の対極としての手続き主義・義務論批判として批判されている――センの立場はいつものように(彼が設定する)両極の間の第三の道




まとめ

  • 規範的な政治哲学では、「超越論的な制度主義(transcendental institutionalism)」は、《手続き主義を真に正当なものにするには、どうすればいいか》という条件づけを、必死に研究している。そこで決定的な影響力を持つのがロールズ正義論』。


  • 20世紀フランスには、私たちの主観性や集団的な生そのものを哲学的な《制度》概念で捉えなおし、その条件づけや組み直しにリアルタイムに取り組む―― その意味で「超越論的な制度論」と呼び得る――倫理と臨床の事業がある。
      • 脱構築とは制度という概念がつねに問題となる制度的実践である」(デリダ




*1:上記邦訳では、「先験的制度尊重主義」と訳されている(p.37)。

*2:強調はすべて引用者による。