「専門家」は、メディアの人脈内で調達される

について、『週刊現代』および『現代ビジネス』あてに、問い合わせのメールを送りました(2月11日)。
本エントリの下部に転載したのが、その文面です(改行部分等についても、元のままです)。
今のところお返事はありませんが、経過はあらためて、この場でご報告いたします。

クラスタ御用達(ごようたし)の、問題意識と専門家

問題の『母親塾』代表・桑野裕子氏は、支援業界の誰も知らないにもかかわらず、
数年前からメディアの取材対象となっているようです。

たとえば2008年の『週刊・東洋経済』「家族崩壊」特集(参照)に、登場しているとのこと*1。 この雑誌は経済系の一流誌で、政財界のトップが読むものでしょう。顧客の8割が「所得上位5%以内」という桑野氏自身の証言からも、その人脈がうかがえます。


桑野氏は、「不登校に母子家庭や生活保護はいない」というのですが、支援現場からは、

 1980年代の不登校は《生き方》で語られたが、今は貧困問題が無視できない

といった声を、複数いただいています(参照*2。 もちろん富裕層の事例はありますし、すべてが危機的ではないですが、これだけ貧困がクローズアップされる状況で、「不登校に母子家庭はいない」と言ってしまえる偏りは、あまりに異様です。


それで気づいたのですが、同じ社会問題でも、階層ごとに、登場する「専門家」の顔ぶれが違っていませんか。富裕層は彼らの人脈で「専門家」を探し出し、彼らの風景に都合のよい話を語る。悪意はなくとも、人脈内でやる限りそうなってしまう。
また富裕層に限らず、それぞれの支援者は、ご自分の参加実態を対象化せずに問題を構成するため、「その人なりの目線」でしか社会参加を語れません。参加実態を再帰的に問い直すようなことは、なかなかできない*3


桑野裕子氏については、業界内の誰も名前を知らないし、「ほっとけばいいんじゃない?」とも言われたのですが、彼女が政治や経済の決定権者に「専門家」と目されているなら、今後さまざまな政策は、「桑野色」に染められることになります。 「現場の私たちが知らないから、ほっといていいよね!」では、思うツボではありませんか。

編集部に問い合わせたのが私一人なら、むしろ私のほうが黙殺されるのかもしれません。しかし――あくまで冷静に対処すべきではありますが――、冷笑していられるほど、余裕のある状況とは思えません。



週刊現代』および『現代ビジネス』あての、問い合わせメール文面(全文)

To: wgendai@kodansha.co.jp, gendaibusiness@kodansha.co.jp 
日付: 2012年2月11日14:27
件名: 貴誌内の、「母親塾」 桑野裕子氏について



 講談社内、『週刊現代』および『現代ビジネス』編集部 御中


 突然の、同時送信メールで失礼いたします。
 私は神戸市在住の上山和樹(うえやま・かずき)と申します。
 1968年生まれ(43歳)の、フリーの男性です。


 もう10年以上前になりますが、貴誌と同じ講談社様より、
 『「ひきこもり」だった僕から』(2001年12月)という拙著にて、
 http://www.amazon.co.jp/dp/4062110725
 お世話になった者です。


 じつは先日、以下の貴誌を拝見いたしました。
 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31723
 この記事は、『週刊現代』2012年2月11日号が元になっているとのこと。
 その最後の2ページ分に、「ひきこもり」に関する記載があるのですが、


 そこで紹介されている『母親塾』代表の桑野裕子という方に、大きな興味を持ちました。このかたについて、連絡先を教えて頂くことはできませんでしょうか。


 私は(上記拙著にも記しましたが)、1982年に不登校で苦しみ始め、その後さまざまないきさつを経て、細々とではありますが、「ひきこもり」に関する公的な取り組みを続けてまいりました(2000年〜)。 ですので、不登校・ひきこもり周辺のお名前にはかなり精通しているはずですが、桑野さんのお名前は、今回初めて伺いました。


 また、私の知人や関係者等にも訊いて回ったのですが、この業界に本腰を入れて10年以上の人たちでさえ、「知らない」とおっしゃっています。


 貴誌の記事によると、桑野氏は「クチコミのみで」「1万件以上の相談を受けた」とのことですが、1万件というと、毎日1件ずつ新規相談を受けても、27年以上かかってしまう計算です。ネットで見つけたお写真は、たいへん若く見えるのですが、 http://bit.ly/xCvmbv  その「1万件」という数字に、信憑性はあるのでしょうか。


 また桑野氏によると、「ひきこもりの8割以上は、所得が上位5%の世帯」というのですが、これは各種の統計資料から、まったくあり得ない数字です。(拙ブログで、検証エントリを書きました。 http://bit.ly/xF4psx


 たいへん話題になった貴誌の記事を通じ、不登校・ひきこもりの関係者には、不信感が広がり始めています。できれば桑野氏ご本人に連絡を取りたいのですが、お許しをいただけませんでしょうか。あるいは、ご取材のいきさつについてだけでも、詳しく伺えませんか。


 (今後の政策動向にかかわる重要な問題ですので、
 この問い合わせやその結果については、ブログや
 親の会等の各種の機会にご報告するつもりです。)


 ご多忙ななか、恐縮です。
 どうか、ご検討を賜れれば幸いです。


 今後とも、よろしくお願い申し上げます。


 上山和樹




*1:現物未確認、在庫もない模様(amazon にもない)。 こちらのサイトに、お名前入りで引用されています。

*2:ほかにもまったく別のかたから、私的なメールを頂きました。私自身も、母子家庭のケースには普通に出会います。

*3:たとえば医師は医師っぽく、学者は学者っぽく、参加している(どんなジャンルも同じことです)。 私が《主観性の生産様式》や《つながりの作法》でやろうとしているのは、参加実態の再帰的な問い直しです。