NHKスペシャル「“無縁死” 3万2千人の衝撃」

  • 再放送: 2010年2月3日(水) 午前0時45分〜1時43分 (2日の夜12時を回ってから) 総合
    • 全国1783、すべての自治体に聞き取り調査を敢行(NHK
    • 「引き取り手がなく、自治体によって火葬・埋葬された人」――年間3万2000人(2008年)
    • そのうち、警察でも自治体でも身元が分からなかったひと(行旅死亡人)――年間1000人近く
    • 無縁死3万2000人のうち、「家族がいるのに引き取られない」ケースがほとんど。

 自宅の居間で亡くなっていたのに、「氏名不詳」の男性がいた(東京都大田区のアパート)。
 大家さんが調べたら、賃貸の契約書が出てきた:「小林忠利」 ⇒ 隣近所と付き合いがなく、家族もいないため、身元が分からず。 ⇒ 勤務先だった給食センターに取材に行くと、「正社員として20年間、定年まで無遅刻・無欠勤」の人だった。 享年73。 自筆の履歴書には、出身地は秋田県と書かれていた。

 本籍地に取材すると、両親はすでに他界。 昔のクラスメートなどを通じて、小林氏の人生が分かってきた。 32歳のとき、勤務先が倒産。 地元に親を残し、東京に働きに出た。(故郷に戻れないままの地方出身者が急増している、とのこと)

 小林氏は、亡くなる半年前まで東京で派遣労働をしていた。 「単調で汚れる仕事だったが、ニコニコしながら働いてくれた」(関係者)。 上記の給食センターを定年退職したあとも、繁忙期だけ声のかかる工場で働いていた(日給1万円)。 亡くなる直前まで両親の供養料を送り続けていたが、小林氏じしんは無縁墓地に埋葬された。 故郷とのつながりを失い、東京でも誰ともつながれず、無縁死していた。 身元不明のまま掲載された官報の記事は、10行だけ。 ごく普通の生活をしていた人が、ひとつ、また一つとつながりを失い、孤独に死んだ。
(ここまでで、冒頭の20分ほど)



孤独死」、「変死体」、「行旅死亡人」など、つながりから切り離れた死が、それぞれの言葉で《問題》として構成されている。(「ひきこもり」も、概念が認知されるまでは「名前のない苦しみ」だった。 概念がないと、社会的な取り組みや手続きの対象にならない。*1


42年間のサラリーマン生活で膨大な名刺を受け取ったのに、会社を辞めたら何の繋がりもなく、離婚もされて一人きりになった男性の事例、ほか。 《仕事をしてる》というアリバイでお金は稼ぐが、繋がりはできない。 順応することは、必ずしもつながりを作ることではない。


《ふれあい》とかでなくて、自力で問題を考え直す分節が要る*2
ところが、何の繋がりもないくせに共同体的抑圧だけが生き残って分節を禁止し(それ自体が《つながり》という夢想への嗜癖から来ている)、「分節なき順応」しか許されない。


《つながり》という言葉を口にした瞬間、お互いが想定している身勝手な夢想がある。 そのレベルから問い直すこと*3。 運用されている概念の相互押し付けぶりにご注意!*4


《つながりかた》それ自体が発明されなければならないのに、夢想と恐怖の押し付け合いみたいな話ばかりになっている。 (つながりは、「コストをかけなさい」などの量的問題ではない。 知識人は量的な議論しか出来ていない。*5
政治(集団的合意)の環境設計は、《つながりかた》の条件整備にあたる。 ネットがあればいいというものではないし、環境設計だけでいいわけでもない。 《つながりかた》にこそ、思想的工夫と技術環境の両方が要る。

    • 厳重に注意すべきことがある。 こうした問題では、孤立した人が一方的に弱者として描かれることが多い(し、それはある程度しかたない)のだが、追い詰められた本人は、その人自体の思い込みが固着しており、周囲の弱者を嫉妬に巻き込む張本人でもあり得るということだ*6。 ▼現状では、「完全に孤立する」か、「陰湿な閉鎖体質の共同体に巻き込まれる」か、どちらかしかない。(支援団体や自助グループにアクセスする人は、相応に覚悟すること。)

つづき


*1:だからといって、いちど固定された概念がそのままでいい、というわけではないが。

*2:決められたイデオロギー服従するだけの幼稚な政治主義は充満しているが、自前で分節過程を起動するつながり方がない。それをやった瞬間にコミュニティから排除される。

*3:エスノメソドロジーや『概念分析の社会学 ─ 社会的経験と人間の科学』を、《つながりかたの分析》と理解し、「それ自体が新しいつながり方の提案になっている」と読むことはできないでしょうか。

*4:「概念を壊せばいい」ということでなくて、自分たちが実際にどういうつながりを生きているか(生きようとしているか)。 お互いに、どんな夢想に巻き込もうとしているのか。 人間関係は、「合意形成ごっこ」でないかどうか。

*5:教科書レベルで制度順応できればいいと思ってる人たち。 自分の順応姿勢そのものが問題の一部であることに、いつまでたっても気づかない。

*6:そういう人物は、たった一人現れるだけで破滅的な効果を持つ。 つながりのあり方について、自覚的な検証手続きを持っていない集団は、迷惑行為じたいを自分たちの集団のスキャンダルとして抑圧する。 《つながり》についてナイーブな観念を持つことは、致命的になりかねない。