『DSM-V』と、カテゴリー化

精神医学会で最も大きな影響力を持つDSM精神障害の診断と統計の手引き)。
それを編集するアメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)のサイト「DSM-V: The Future Manual」より:

 A release of the final, approved DSM-V is expected in May 2012.

次の改訂版である『DSM-V』が出るのは2012年2013年5月とのことですが、大きな変革が予定されているようです。 参照


グリージンガーへの回帰?」(lacanianさん、2008年5月18日)

 DSM-V(2011年*1に発表が予定されている「精神障害の診断と統計の手引き」)が凄いことになっている。 「精神病を脱構築する[Deconstructing Psychosis]」というDSM-V改定のための中間報告が出ており、そこでは統合失調症双極性障害、大うつ病性障害、ならびに物質依存性障害などの精神病を、カテゴリーではなく、ディメンションの見地から包括的に捉える試案が検討されているのである。

脱構築」という言葉は、もう普通に使われるんでしょうか。


DSM-V研究行動計画

DSM-V研究行動計画

 本書はDSM‐IV刊行直後から、その問題点を詳細に洗い出し、来たるべき第五版に向けて、各分野の専門家が描き上げたアジェンダ=研究行動計画である。 各疾患の分類や命名の方法は正しいのか。脳科学や遺伝学と精神疾患の関係の実際はどうか。DSM‐IVの重大な空白であった人格障碍と関係障碍をどう考えるべきか。現行のカテゴリー的なアプローチに代わるディメンジョナル・モデルの採用の可能性は? 各文化や人種・ジェンダー・宗教の違いなどを体系にどう組み込むことができるのか。精神科医の日常の困難とマニュアルを関係づけようとする真摯な姿勢が、ここにある。 (略) 有効性と限界を同時にはらんだマニュアルよりも、このプロセスそのものが重要ではないか。
 「本書は、計画でもあるが、それよりも予想であり推測であり勧告である。論争の書でもある。科学としての精神医学の目下の進歩の外挿による将来像もある。もっとも、本書の白眉は現在のDSMの欠点とされる発達、人格障碍、文化、エスニシティに重点がおかれ、その部分の文章には一段と迫力がある」(中井久夫)。
     みすず書房 『DSM-V研究行動計画』

専門性をめぐる葛藤がカテゴリー談義にすり替えられる状況に辟易していたのですが(参照)、DSMの改訂作業自体が直接「カテゴリー化」を問題にしているとのこと。――これが「ひきこもり」周辺の事情にどう影響してくるのか、これから時間をかけて考えてみたいです。

 『DSM-V研究行動計画』は、(略) マニュアルの有効性と限界を明確にしようとする苦闘の記録でもある。 「苦闘の記録」というのは、診断基準の現状をずばっと批判するだけでは事態は変わらないことを、医師たちは日常の臨床現場をみて知っているからである。現行の診断基準に不信の眼を向けるだけでは、ひとりの患者を前にして、医師はただ茫漠たる思いで手をこまねいていることしかできないかもしれない。患者の生活史を丹念に追い、さまざまな症例に目を通し、現行の診断基準を参考にしながら、さまざまなアプローチをして患者と付き合い、着地点を想定していくこと、この二つの新著に通底しているのは古くて新しい問い「医師‐患者関係とは何か」である。
     臨床現場の現実を映す苦闘の記録」(みすず書房・トピックス)*2

すごく高価い本ですが*3、「解題(黒木俊秀・松尾信一郎)」「訳者あとがき(中井久夫)」だけでも、ぜひ立ち読みを。



*1:これまでは「2011年」と予告されていました。

*2:どなたがお書きになったんでしょう・・・?

*3:amazonの中古商品コーナーで、少し安めに手に入ります(私がここで購入した日から、さらに数冊売れたようです)。