雑誌『ビッグイシュー』 第51号 発売中*1

斎藤環さんと私の往復書簡 「和樹と環のひきこもり社会論」、今号は私の番で、「欲望することは義務か?」です。
文中で芥川龍之介の小説「河童 kappa」を取り上げているのですが、問題となる箇所を引用しておきます(以下、「バッグ」というのはある男性河童の名前です)*1

 河童もお産をする時には我々人間と同じことです。やはり医者や産婆などの助けを借りてお産をするのです。 けれどもお産をするとなると、父親は電話でもかけるように母親の生殖器に口をつけ、「お前はこの世界へ生まれてくるかどうか、よく考えた上で返事をしろ。」と大きな声で尋ねるのです。 バッグもやはり膝をつきながら、何度も繰り返してこう言いました。 それからテエブルの上にあった消毒用の水薬でうがいをしました。 すると細君の腹の中の子は多少気兼ねでもしているとみえ、こう小声に返事をしました。
 「僕は生まれたくはありません。第一僕のお父さんの遺伝は精神病だけでもたいへんです。その上僕は河童的存在を悪いと信じていますから。」
 バッグはこの返事を聞いた時、てれたように頭をかいていました。 が、そこにい合わせた産婆はたちまち細君の生殖器へ太いガラスの管を突きこみ、何か液体を注射しました。 すると細君はほっとしたように太い息をもらしました。 同時にまた今まで大きかった腹は水素ガスを抜いた風船のようにへたへたと縮んでしまいました。




*1:強調は引用者。 読みやすいように、文字を一部現代風に変えました。